食道裂孔ヘルニア

ヒトには胸部と腹部の間に横隔膜という隔壁があって、胸腔と腹腔を分けている。胸腔と腹腔に連続している大動脈、大静脈、食道は、それぞれ横隔膜にある裂孔を通っている。
食道が通る穴が食道裂孔で、この穴を通って腹腔内にあるべき胃の一部が胸腔側へ脱出している状態を、食道裂孔ヘルニアという。
食道裂孔からの胃の脱出は腹圧のかけ具合によっても変化するし、立ったり座ったりしている時と横になっている(臥位(がい))時では変化する。呼吸により出たり入ったりもする。重症例では胃の半分以上、時には全体が縦隔(じゅうかく)内に脱出することもある。

<原因について>
生まれつき食道裂孔が緩く胃が脱出している先天性の食道裂孔ヘルニアの症例もある。また、高齢となり体の組織が緩むとともに食道裂孔も緩んで食道裂孔ヘルニアとなる人もいる。背中の曲った(亀背(きはい))人が食道裂孔ヘルニアを合併していることは、まれではない。

そのほか、喘息(ぜんそく)や慢性気管支炎などの慢性の咳嗽性(がいそうせい)疾患のある人は、腹圧が上昇するので食道裂孔ヘルニアになりやすくなる。また、肥満の人も腹圧上昇による食道裂孔ヘルニアが現れやすいといわれている。

<症状の現れ方>
食道裂孔ヘルニアがあるだけで自覚症状がなければ、単にヘルニア状態にあるだけで問題とならない。自覚症状や逆流性食道炎を合併して初めて、“ヘルニア症”ともいうべき病態を呈する。
自覚症状としては(1)胸やけ、(2)胸痛、(3)つかえ感が三大症状で、これは逆流性食道炎の症状と同じである。症状をとくに強く自覚するのは夜間就眠時(とくに明けがた)、かがんで草取りなどしている時、食後しばらくした時、酒・たばこ・コーヒー・ココア・チョコレート・油ものなどを摂った時など。

<治療方法>
つかえ感や胸やけ・胸痛があったら消化器科に受診して、上部消化管造影と内視鏡の検査を受けるとよい。 食道裂孔ヘルニアが軽ければ、とくに治療の必要はない。逆流性食道炎があればH2受容体拮抗(きっこう)薬やプロトンポンプ阻害薬を服用する。傍食道型食道裂孔ヘルニアは原則的に手術を行う必要がある。食道裂孔ヘルニアも、程度と逆流性食道炎の合併により手術の対象となる。

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