睡眠科学の進歩1

睡眠科学という本を読んでいる。櫻井武さんという筑波大学の先生が書かれた本だ。

あとがきに「脳を成長させ、有効に使うために鍵となるのは、日々のたゆまぬ努力と、よい睡眠だと私は考えている」とある。

つまりたゆまぬ努力と睡眠が共に重要だと考えているのだ。私もそう実感する。ただ、睡眠が十分できていなければたゆまぬ努力すらできない、とも考える。

そのくらい睡眠は重要だと思う。日本にこのような学者がいることを心強く思う。

また「ヒトの脳こそはこの地球上に存在するもっとも高度な構造物と言ってよい。これほど高度で複雑な機能をもつものが、メンテナンスを必要としないはずがない。そのメンテナンス過程こそ睡眠なのである」とある。

これほど睡眠は奥が深く、解き明かすに値する科学なのだ。

レム睡眠、ノンレム睡眠という言葉は聞いてことがある人も多いだろう。

人は眠りに入ってから1時間ほど経つと、脳波はノンレム睡眠の段階1(覚醒に近い浅い眠り)に似た形を示し、まず、筋肉の動きが低下する。次に、左右に眼球が動く急速眼球運動(REMs<レムズ>=Rapid Eye Movements)がはじまる。この眼球運動の「REM<レム>」という頭文字から「レム睡眠」と呼ばれています

レム睡眠時に見られる急速眼球運動がない時の睡眠をノンレム睡眠(NREM<ノンレム>=Non Rapid Eye Movement)と呼ぶ。眠りにつくと、はじめに浅いノンレム睡眠があらわれ、時間とともに眠りが段々と深くなり、深い睡眠状態がしばらく続く。その後、再び浅いノンレム睡眠状態になり、レム睡眠へと移る。

睡眠の科学が少しずつ進歩していく歴史はおもしろいし興味深い。

睡眠には身体を休息させるのみではなく、脳の休息、さらには、能動的に脳のメンテナンス作業と情報の整理をする役割があると考えられている。たとえば、脳では、老廃物の処理は血流だけではなく、脳脊髄液とよばれる細胞間隙を満たす液体の流れが行っているのであるが、その処理はほとんどがノンレム睡眠中に行われるという結果も示されている。

2012年にロチェスター大学のマイケン・ネーデルガードらのグループは、グリア細胞が血液の周囲に脳脊髄液を循環させる水路のような経路(血管周囲腔)をつくっていて、そこで脳細胞への栄養供給と老廃物の排出を行う”グリンパティックシステム”の存在を示した。他の組織では老廃物の処理はリンパ系が行っているが、リンパ系の存在しない脳組織では、グリア細胞が代わりに行っているというわけだ。

そして翌年には、このシステムが機能するのは、主にノンレム睡眠のときであることが示された。つまり血管周囲腔が拡大して、この水路を洗い流すよう脳脊髄液が流れるのは、ノンレム睡眠中なのである。

マウスを使った研究では、眠りを断つことにより、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβというたんぱく質が、記憶をつかさどる海馬という部分に蓄積することも報告されている。アミロイドβタンパク質は覚醒時に脳内で蓄積し、睡眠時に洗い流されて少なくなるというのだ。

この話は2012年というから最近のことだ。やはり眠れること、はとても重要なことなのだ。

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