自尊心なきところに相手を包み込む包容力は生まれない

人間性を高めようとするとき、一般的な啓発書は自尊心を養うことが重要だと言っている。

自尊心は「自分の人格を大切にする気持ち。また、自分の思想や言動に自信を持ち、他からの干渉を排除する態度」と定義されている。しかしいつも自分のことを素晴らしいと思っていなければならないなんて疲れる。それにこれは概してエリートと括られる人たちに共通していることだが、一度躓くと立ち上がれなくなってしまい、自分の巨大なエゴをなだめかすことができなくて自滅してしまうなんてことも起こり得る。

そこで最近注目されているのが、自分への思いやり。自分への思いやりとは、自分の過ちや欠点を優しさと理解を持って受け止める態度である。「人間は間違えるもの」という事実を受け入れるのだ。困難な状況下で自分を思いやることは、厳しい自己評価を下すこととは違うし、自分の優れた面だけを見てプライドを守ろうとすることでもない。

自己を慈しむことが個人の満足や楽観主義、幸福感などを高め、不安や憂鬱を減らすことに繋がるのは不思議な事ではない。

自分を思いやるという精神は、自らの成果に対する責任を引き受けながら、同時に自分を慈しむことができる。肝心なのはどこに最終目標を置くかではなく、その過程での浮き沈みをどうとらえるかなのだ。

敵をもファンに変える超一流の交渉術 石川幸子 より

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