三菱自動車のリコール隠し

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三菱自動車のリコール隠しについて調べた。といっても「失敗知識の活用」の著者である小林英男さんがまとめられた失敗知識データベースの内容になる。

過去の失敗例を学ぶ意味で以下に示しておく。

<事例概要>

三菱自動車のリコール隠し発覚の発端は、トレーラーのタイヤハブの破損事故である。2002年1月10日に、重機を運ぶ大型トレーラーから走行中にタイヤがはずれて転がり、歩いていた主婦にぶつかり、死亡した。一緒に歩いていた長男と次男も軽いけがをした。

重機運搬大型トレーラーのタイヤハブ。代表的なスーパーグレートトラクタを図2に示す。


トレーラーのタイヤハブの破損が原因である。三菱自動車製の大型車のハブ破損事故は1992年以降に計57件発生し、うち51件で車輪が脱落した。三菱自動車は一貫してユーザー側の整備不良としたが、同社から商用車部門を引き継いで分社化した三菱ふそうトラック・バスは2004年3月、製造者責任を認めて国土交通省にリコールを届け出た。さらに、同年5月、関係者5名が道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で、関係者2名が業務上過失致死傷容疑で逮捕され、法人としての三菱自動車も道路運送車両法(虚偽報告)容疑で刑事告発される結果となった。

<事象>

重機を運ぶ大型トレーラーから走行中にタイヤがはずれて転がり、歩いていた神奈川県大和市上和田、主婦岡本紫穂さん(29)にぶつかった。岡本さんは間もなく死亡、一緒に歩いていた長男(4)とベビーカーに乗っていた次男(1)も軽いけがをした。
神奈川県警瀬谷署の調べでは、26本あるタイヤのうち、左最前部にあるタイヤがホイールごと外れて下り坂を約50m転がり、道路左わきの歩道を歩いていた岡本さんの背中を直撃したという。タイヤは直径1m、幅28cmで、ホイールを合わせると重さは約140kgになるという。タイヤと車軸の間には、車軸の周囲で回転するハブという部品がある。神奈川県警などの調べで、ハブ自体が壊れており、タイヤはブレーキドラムごとはずれていたことがわかった。


運転手の会社がトレーラーを買ったのは1994年である。その後、主にパワーショベルなどの重機を運んできたという。トレーラーは2001年1月に車検を受け、合格している。ただし、ハブはタイヤの内側で外から見えにくい。業者によると、車検ではハブの周辺をハンマーでたたいて点検するだけという。このトレーラーのメーカー三菱自動車によると、同型車は1986年から販売を始め、今も約750台が走っているという。これまでタイヤがはずれる事故は起きておらず、タイヤ周りの不具合でリコールしたこともないと話している。


ハブとタイヤの取付状況を図3に、ハブの断面形状を図4に示す。ハブは円筒形で、先端は円盤形(フランジ)となっている。フランジはボルトでホイールに固定される。一方、円筒形の内側には、車軸が差し込まれる。つまり、車軸と車輪(ホイールとタイヤ)のつなぎがハブの役目である。神奈川県警がはずれた車輪を分解したところ、特殊鋳鉄製で重さ22kgのハブが、円盤形と円筒形を切り離すように割れていた。ハブの円盤形の内外両面には、ホイールとブレーキドラムをはめるための隅部(切欠き)がある。車重と走行時の負荷が最も強くかかる急所である。割れは、内外面の隅部の先端を結ぶ直線のように走っていた。一方、ボルト8本は車輪に残っていた。

<原因>

リコールをせず、違法なヤミ改修で対応した理由として、下記が指摘されている。
○ リコールすれば莫大な費用がかかり、成績に響くので、関係部署から市場品質部にリコール回避の圧力がかかり、それに従わざるを得なくなった。
○ 製造、設計、技術部門などで不具合の原因を作った者は社内処分を受けるので、関係者はその処罰から逃れたがった。
三菱自動車は1970年に三菱重工業から独立したが、三菱グループ向けの売り上げが多い。現在は分離した商用車の三菱ふそうトラック・バスはもちろん、個人を含む乗用車でも同様である。国内販売台数は2003年度は軽自動車23万台を含む約35万8千台であり、その約半分が取引先と家族を含む広義の三菱グループの需要とみられる。日本国民の10人に1人は、三菱グループにつながっている。三菱の名のついた企業がつぶれるはずがないという過信がある。三菱自動車の場合、結果的にそれが甘えにつながり、隠蔽のコーポレートカルチャー(企業体質)になったともいえる。
三菱自動車の体質として、関係者は報道に以下を証言している。
○ 顧客に軸足を置かない企業優先の論理が、経営者(幹部)に横行している。
○ 権力、権限が経営者(幹部)に集中した縦割り組織で、指示待ち社員の集合体になっている。
また、1996年に米国現地工場でセクハラ問題、1997年には総会屋に対する利益供与事件、2000年のリコール隠し事件とコーポレートガバナンス(企業統治)を揺るがす事態が続発してイメージ低下から販売が低迷しても、三菱グループは常に三菱自動車を支えてきた。三菱ブランドの企業はつぶせないという強い思いである。それが三菱自動車自身の社会的責任の所在をあいまいにしてきた。一方、資本的にも東京三菱銀行と三菱商事から融資と投資を受ける三菱自動車は、経営上その顔色をうかがう面があった。

<対処>

営業を優先させ、危険を承知で製品をつくり続けることの愚を、今回の事故は浮き彫りにした。表に出にくかった自動車の欠陥をめぐる、かつてない大がかりな捜査が業界に与える影響は大きい。
今後は欠陥を知った時点で、とりうるすべての安全策を実施し、安全性にかかわる情報の公開を目前の利益に勝る優先課題にすることが、自動車メーカーに課せられる。それを実行した自動車メーカーだけが、消費者に選ばれることになる。

<対策>

三菱自動車は2004年5月21日、経営再建策を発表した。経営戦略づくりを、岡崎洋一郎会長兼社長(2004年4月30日就任、元三菱重工業常務)直属のクロス・ファンクショナルチームという、40歳台の中堅社員中心の約50人でつくる特別チームにゆだねる大幅な組織改編に踏み切る。新チームで、硬直化した人事組織に風穴を開けるねらいである。
同時に、検察OBなどの社外有識者を中心とする企業倫理委員会も設置し、外部監視によるコンプライアンス(法令遵守)の徹底をはかる。
しかし、この再建策では立ち直れず、2005年1月28日に、三菱自動車は新たな経営再建策を発表した。三菱重工業、三菱商事、東京三菱銀行の三菱グループ3社が計2,700億円の増資を引き受け、融資を含めた新支援額は5,400億円に達する。前の再建策の4,960億円との合計は1兆円を超え、支援企業の負担はさらに巨額に膨らむ。三菱重工業は出資比率を15%まで高め、三菱自動車を連結対象会社とし、再建支援での主導権を明確化する。三菱自動車の会長兼最高経営責任者は、西岡喬 三菱重工業会長が兼ねる。相変わらずの身内頼みの結果となった。
一方、三菱自動車で相次いだリコール隠し事件を受け、国土交通省は2005年度から、リコール調査官制度を創設することを決めた。自動車メーカー技術職OBの10人を任命し、車の構造的な欠陥が疑われる重大事故の場合は現場にも出動する。メーカーの原因究明作業を監視するとともに、独自の実験で原因を分析し、調査結果をもとに国土交通省がメーカーにリコールを勧告する。将来は体制を増強し、自動車版の事故調査委員会を目指す。2004年秋にも数人を任命して、試験運用する方針である。
しかし、事故が起きた後でのリコールでは対策が遅すぎる。根本的な対策は、安全優先のものづくりの基本の遵守と、安全が懸念される場合への素早い対応にある。これは企業と個々の技術者の両方に要求される課題である。
トレーラのタイヤハブの破損は、金属疲労が原因である。三菱ふそうトラック・バスでは、大型車用フロントハブ(前輪のハブ)の疲労強度について、抜本的な技術的検討を行った。まず、疲労強度検証の考え方と手順を見直した。次に、従来ハブからフランジ厚さと隅部半径を増大して応力集中係数を減じ、かつ材料を高強度のFCD600に変えた新型ハブに変更した。そして、新型ハブの疲労強度が恒久対策として十分であることを検証した。この報告は2004年7月に国土交通省へ提出され、また新型ハブに変更する追加リコールの届出もなされた。リヤハブ(後輪のハブ)についても、疲労強度の検証が行われている。

<知識化>

三菱自動車は2000年の大量のクレーム隠し発覚時に体裁ばかり重視し、対外的なジェスチャーだけで、そこから先に踏み込まなかったことに、問題は集約されている。
不祥事があるとトップが頭を下げて幕を引くのが世の常である。しかし、今回の事件は、襟を正すと口で言うだけでなく、改善の仕組みを具体的に動かさなければならないことを社会に示した点で、大きな意義がある。
問われているのは内部統制のあり方である。うそを通そうとすれば会社自体が追い込まれることを、事件は如実に示した。社会に犠牲者を出し、会社のブランドはぼろぼろになった。刑事責任が認められれば、株主代表訴訟が起こるだろう。おそらく会社のためを思って何十年も働いた結果がなぜこんなことになったのか、全社員がわからないだろう。
自分の客は離れないと考える文化の強い会社は、同じことをする可能性がある。真に会社のためになる行動とは何なのかを、企業のトップたちは改めて考えるべきである。

<よもやま話>

企業のコンプライアンスは、単に法令遵守ではなく、業界環境、企業風土などに応じて法令遵守度を高めていくための企業活動の総体とみることができる。企業コンプライアンスの専門家は、不祥事への対処として、以下の2つを挙げている。
(1) インセンティブ(動機付け)を高める制度の必要性
日本では、賠償額は実損害に限られるので、仮に自社の車で死者が1人出たとしても1億円程度である。逆に製品のリコールに至った場合、直接費用に営業上の損失を加えると膨大な額になる。米国では懲罰的損害賠償が認められている。日本では、技術力と人的資源がありながら市場から退場を迫られかけている企業に、コンプライアンスと情報開示の徹底を条件に特別の資金調達を認める制度の設置が考えられる。
(2) 内部通報の制度と情報の見極め
最近の不祥事はほとんどが内部通報によって発覚しており、経営トップが不祥事情報を早く知ることが必要である。日本経済団体連合会では、企業倫理ヘルプライン(相談窓口)の構築を各企業に呼びかけている。ただし、経営トップには、そのなかからコンプライアンスとして重要な情報を見極める目を養うことが求められる。
以上の2つに加えて、以下を追加する。
(3) 法令の性能規定化と民間規格の活用
国の規制緩和と事業者の自主規制は、国と社会の一大方針のはずであるが、現実には進行していない。法規制のみでは社会の安全は確保できない。人は法規制の抜道を考える。法規制は必要条件にすぎないが、企業は必要十分条件と解釈する。事業者は自分たちで規格をつくり、自分たちで規格を守る。これが社会の安全の確保の王道である。

以上である。

当時関わった技術者はどう感じたのだろうか。

なぜタイヤがはずれたのか。本当に整備不良だと思ったのだろうか。

三菱自動車の若手技術者が、ハブ破損と整備不良による摩耗との関連は少なく、重要部品の耐久強度評価の重要性を指摘するリポートを社内研修会で発表したそうだ。

疲労強度の検証は難しいし時間がかかるものだ。整備不良による摩耗がハブ破損につながるとの結論をとりまとめ、リコールを回避したのだが、疲労破断が起きてしまったことがわかった時点で十分な検証をとる時間が必要だったはずである。

当時、三菱自動車内での技術者への圧力は相当なものだったと推察する。

自身も想定外の破断事故を何度も経験している。

技術者は謙虚さが必要だ。

そして日々の自己研鑽が重要であることを再認識させられる。

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